「10回3セット」に科学的根拠はあるのか?セット数と筋肥大の用量反応関係

トレーニング科学

結論から述べる。「10回3セット」という処方には、厳密な科学的最適解としての根拠はない。しかし、完全に間違っているわけでもない。筋肥大に関する現在のエビデンスは、レップ数よりもトレーニングボリューム(セット数 × レップ数 × 負荷)と、力学的張力の総量が重要であることを示している。

「10回3セット」の起源

「10回3セット」が世界中のジムで標準的なプロトコルとなった起源は、1940年代〜1960年代にかけてのいくつかの出来事に遡る。

最も広く引用されるのは、軍医トーマス・デロルム(Thomas DeLorme)の研究である。デロルムは第二次世界大戦中に負傷兵のリハビリテーションとして、漸進的な抵抗運動を用いた。1948年に発表された論文で、彼は「10回の反復を3セット行い、各セットで負荷を漸増する」というプロトコルを提案した(DeLorme, “Restoration of muscle power by heavy-resistance exercises,” Journal of Bone and Joint Surgery, 1945)。

ただし、デロルムのプロトコルはリハビリテーション目的であり、健常者の筋肥大を最大化するために設計されたものではない。にもかかわらず、このプロトコルはその後のフィットネス文化に深く浸透し、いつしか「筋トレの標準」として定着した。

つまり「10回3セット」は、筋肥大の最適解として発見されたのではなく、リハビリの現場から慣習的に広まったものである。

筋肥大に本当に重要な変数は何か

現在の運動科学では、筋肥大を決定する主要な変数として以下の3つが挙げられている。

第一に、力学的張力(Mechanical Tension)である。筋肉が高い張力にさらされる時間が長いほど、筋肥大のシグナルが強くなる。これは筋線維内のメカノセンサーが力学的ストレスを感知し、mTOR経路を活性化することで筋タンパク質合成が促進されるためである(Schoenfeld, “The mechanisms of muscle hypertrophy and their application to resistance training,” Journal of Strength and Conditioning Research, 2010)。(筋肥大シグナリングに影響するもう一つの要因として、冷水浴の影響も知っておくべきである)

第二に、トレーニングボリュームである。ボリュームは一般に「セット数 × レップ数 × 負荷」として定義される。しかし近年の研究では、セット数のみをボリュームの指標とするアプローチが広まっている。これは「ハードセット」(筋力的な限界に近いセット)の数が筋肥大と最も直接的に相関するためである。

第三に、漸進的過負荷(Progressive Overload)である。時間の経過とともに負荷、レップ数、またはセット数を増加させることが、継続的な筋肥大の条件となる。

レップ数は筋肥大にどう影響するか

長年の通説として「筋肥大には8〜12レップが最適」「低レップ(1〜5回)は筋力向上向け」「高レップ(15回以上)は筋持久力向け」というゾーン分けが信じられてきた。

しかし、この区分けは近年の研究で大幅に修正されている。

Schoenfeld et al.(2017)のメタ分析では、低負荷(1RMの30〜50%)と高負荷(1RMの75%以上)のトレーニングを比較した場合、セットを筋力的な限界(failure)近くまで行えば、筋肥大の効果に統計的な有意差はなかったと報告されている(Schoenfeld et al., “Strength and Hypertrophy Adaptations Between Low- vs. High-Load Resistance Training: A Systematic Review and Meta-analysis,” Journal of Strength and Conditioning Research, 2017)。

つまり、5回でも20回でも30回でも、十分な努力度(限界に近い状態)で行えば筋肥大は起こる。「10回」という数字自体に魔法はない。

ただし、実用的な観点では6〜30レップの範囲が推奨される。1〜5レップの超高負荷は関節や結合組織への負担が大きく、30レップ以上の超低負荷は心血管系の疲労が先に来て筋肉への刺激が不十分になりやすい。

セット数と筋肥大の用量反応関係

では、セット数はどれだけ行えばよいのか。これについては「用量反応関係」を示す研究が複数存在する。

Schoenfeld et al.(2019)のメタ分析では、1部位あたりの週間セット数と筋肥大の関係を分析し、以下の結果を報告している。

週間セット数(1部位あたり)筋肥大効果
5セット未満効果あり(最小有効量)
5〜9セット中程度の効果
10セット以上最大に近い効果

(Schoenfeld & Grgic, “Effects of range of motion on muscle development during resistance training interventions: A systematic review,” SAGE Open Medicine, 2020)

別のメタ分析では、週10セット以上でさらなる筋肥大効果が見られるものの、週20セットを超えると効果が頭打ちになるか、場合によっては減少する可能性が示唆されている(Baz-Valle et al., “Total Number of Sets as a Training Volume Quantification Method for Muscle Hypertrophy: A Systematic Review,” Journal of Strength and Conditioning Research, 2021)。

これらのデータを総合すると、1部位あたり週10〜20セットが多くの人にとっての最適な範囲と考えられる。

「3セット」は最適なのか

1回のセッションで3セット行うこと自体は不合理ではない。しかし、最適かどうかは以下の変数によって変わる。

週あたりの頻度が重要である。例えば、胸のトレーニングを週1回しか行わない場合、1セッションで3セットでは週の総ボリュームが3セットに留まり、最適な10〜20セットに大きく届かない。一方、週3回行うなら、1セッション3セットで週9セットとなり、最適範囲の下限に近づく。

つまり「3セット」が適切かどうかは、週あたりの頻度とセットで決まる。

週の頻度1セッションのセット数週の総セット数評価
週1回3セット3セット不足気味
週2回3セット6セット最低限
週2回5セット10セット良好
週3回3〜4セット9〜12セット最適範囲
週3回6〜7セット18〜21セット上限付近

ジャンクボリュームという概念

セット数は多ければ良いわけではない。近年、「ジャンクボリューム」という概念が注目されている。これは、疲労によってフォームが崩れたり、筋肉への刺激が不十分なセットのことを指す。

1セッション内でセット数を増やしすぎると、後半のセットではパフォーマンスが大幅に低下する。研究では、1筋群あたり1セッションで10セット以上行うと、後半のセットの筋活動(EMG)が有意に低下し、筋肥大への貢献度が下がることが報告されている。

この問題を回避するために有効なのが、トレーニング頻度の増加である。同じ週間ボリューム(例:週12セット)であっても、1セッション12セットよりも、3セッション × 4セットに分割した方が、各セットの質が高くなり、筋肥大効果が向上する可能性がある。

RIR(Reps In Reserve)による追い込み度の管理

セット数やレップ数と同様に重要なのが、各セットの「追い込み度」である。これを定量化する指標がRIR(Reps In Reserve = あと何回できるか)である。

RIR意味
RIR 0限界(failure)もう1回も挙がらない
RIR 1あと1回はできた限界の1回手前で終了
RIR 2あと2回はできたやや余裕を残して終了
RIR 3以上余裕ありウォームアップ〜中程度

筋肥大を目的とする場合、ワーキングセット(メインセット)はRIR 0〜3の範囲で行うのが効果的とされている。RIR 4以上のセットは筋肥大への貢献度が低く、ジャンクボリュームとなりやすい。

ただし、毎セット完全な限界(RIR 0)まで追い込むことが最善とは限らない。全セットをfailureまで行うと、神経系の疲労が蓄積し、セッション後半のパフォーマンスが低下する。多くのトレーニング研究者は、ほとんどのセットをRIR 1〜2で行い、最終セットのみRIR 0にするアプローチを推奨している。

では、どうすればいいのか

以上のエビデンスを統合すると、筋肥大のための実践的な指針は以下のようになる。

レップ数は6〜30の範囲で、自分が続けやすい範囲を選ぶ。特定の数字にこだわる必要はない。重い重量が好きなら6〜8レップ、関節に負担をかけたくなければ12〜20レップが実用的である。

セット数は1部位あたり週10〜20セットを目安とする。初心者は週10セット程度から始め、トレーニング経験の蓄積とともに段階的に増やしていく。

頻度は1部位あたり週2〜3回が推奨される。1回のセッションで大量のセットを行うより、複数回に分散した方がセットの質が維持できる。

追い込み度はRIR 1〜2を基本とし、各エクササイズの最終セットでRIR 0に近づけるのが実用的なアプローチである。

漸進的過負荷を忘れない。同じ重量、同じレップ数、同じセット数を何ヶ月も続けていては、筋肥大は停滞する。毎週わずかでも負荷、レップ数、またはセット数を増やす意識を持つことが長期的な成長の鍵となる。
(トレーニングのレップ数を増やす手段として、クレアチンのエビデンスも確認してほしい)

まとめ

・「10回3セット」はリハビリ由来のプロトコルであり、筋肥大の科学的最適解ではない
・筋肥大に最も重要なのは力学的張力、トレーニングボリューム、漸進的過負荷の3要素
・レップ数は6〜30の範囲であれば、十分な努力度があれば筋肥大効果に大差はない
・1部位あたり週10〜20セットが現時点で推奨される最適ボリューム範囲
・セット数は1セッションに詰め込むより、週2〜3回に分散した方が質が高い
・各セットの追い込み度(RIR)はRIR 1〜2を基本とし、最終セットのみ限界まで行うのが実用的
・週20セットを超えると効果が頭打ちになるか減少する可能性がある

(筋力だけでなく心肺持久力も寿命に直結する。VO2maxと全死亡率の関係も必読である)


【参照論文】

  1. DeLorme, T.L. (1945). “Restoration of muscle power by heavy-resistance exercises.” Journal of Bone and Joint Surgery, 27(4), 645-667.
  2. Schoenfeld, B.J. (2010). “The mechanisms of muscle hypertrophy and their application to resistance training.” Journal of Strength and Conditioning Research, 24(10), 2857-2872.
  3. Schoenfeld, B.J. et al. (2017). “Strength and Hypertrophy Adaptations Between Low- vs. High-Load Resistance Training: A Systematic Review and Meta-analysis.” Journal of Strength and Conditioning Research, 31(12), 3508-3523.
  4. Schoenfeld, B.J. & Grgic, J. (2020). “Effects of range of motion on muscle development during resistance training interventions: A systematic review.” SAGE Open Medicine, 8.
  5. Baz-Valle, E. et al. (2021). “Total Number of Sets as a Training Volume Quantification Method for Muscle Hypertrophy: A Systematic Review.” Journal of Strength and Conditioning Research, 35(3), 870-878.
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