種子油(シードオイル)を避けるべき理由:リノール酸と炎症の科学

栄養戦略

結論から述べる。過去100年間で人類のリノール酸(オメガ6系多価不飽和脂肪酸)の摂取量は約3倍に増加した。この増加は種子油の普及と一致しており、体内の脂肪組織におけるリノール酸の蓄積が慢性炎症と関連する可能性が複数の研究で示されている。

種子油とは何か

種子油(シードオイル)とは、植物の種子から化学的な工程を経て抽出される油脂の総称である。具体的には以下のものが該当する。

・キャノーラ油(菜種油)
・大豆油
・コーン油
・ひまわり油
・綿実油
・サフラワー油(紅花油)
・グレープシードオイル
・米油

これらは日本のスーパーで「サラダ油」「植物油」として広く販売されている。外食産業や加工食品でも大量に使用されており、現代人が最も多く摂取している油脂カテゴリである。

一方、以下の油脂は種子油には分類されない。(動物性脂肪を中心とした食事法についてはカーニボアダイエット完全ガイドで解説している)

・オリーブオイル(果実から搾取)
・ココナッツオイル(果実から搾取)
・バター、ギー(動物性脂肪)
・タロウ、ラード(動物性脂肪)
・アボカドオイル(果実から搾取)

なぜ種子油が問題視されるのか

種子油の問題点は、その脂肪酸組成にある。種子油にはリノール酸(LA: Linoleic Acid)というオメガ6系多価不飽和脂肪酸が極めて高い割合で含まれている。

油脂リノール酸の含有率
サフラワー油(高リノール)約75%
ひまわり油約65%
コーン油約55%
大豆油約53%
綿実油約52%
キャノーラ油約20%
オリーブオイル約10%
ココナッツオイル約2%
バター約2%
タロウ(牛脂)約3%

(出典:USDA FoodData Central)

リノール酸自体は必須脂肪酸であり、微量は必要である。問題は「量」にある。

リノール酸の摂取量はどう変化したか

人類の食事におけるリノール酸の比率は、歴史的に総カロリーの1〜3%程度であったと推定されている。しかし、20世紀に種子油の工業的生産が普及して以降、その比率は急上昇した。

米国のデータでは、1909年にはエネルギー比率の約2.8%だったリノール酸が、2010年には約7.2%にまで増加している(Blasbalg et al., “Changes in consumption of omega-3 and omega-6 fatty acids in the United States during the 20th century,” American Journal of Clinical Nutrition, 2011)。

日本においても同様の傾向が見られ、植物油の1人あたりの年間消費量は1950年代の約2kgから、現代では約14kgへと約7倍に増加している。

この変化を引き起こした最大の要因は、1960年代以降に「飽和脂肪酸は心臓病の原因である」とする仮説が広まり、バターやラードから植物油への置き換えが政府レベルで推奨されたことにある。

リノール酸と炎症のメカニズム

リノール酸が体内で問題を引き起こす主な経路は以下の通りである。

第一に、リノール酸は体内でアラキドン酸(AA)に変換される。アラキドン酸はプロスタグランジンE2、トロンボキサンA2、ロイコトリエンB4などの炎症性エイコサノイドの前駆体となる。リノール酸の摂取量が増えると、これらの炎症性メディエーターの産生が増加する可能性がある(Calder, “Omega-6 fatty acids and inflammation,” Prostaglandins, Leukotrienes and Essential Fatty Acids, 2006)。

第二に、オメガ6とオメガ3の比率の問題がある。オメガ6系脂肪酸とオメガ3系脂肪酸は、同じ酵素(デルタ6デサチュラーゼ、デルタ5デサチュラーゼ)を使って代謝される。リノール酸の過剰摂取はこの酵素の競合を通じて、抗炎症性のオメガ3系脂肪酸(EPA、DHA)の産生を阻害する。

現代の西洋食におけるオメガ6:オメガ3比は15:1〜20:1と推定されているが、進化的に人類が適応してきた比率は1:1〜4:1程度とされている(Simopoulos, “The importance of the ratio of omega-6/omega-3 essential fatty acids,” Biomedicine & Pharmacotherapy, 2002)。

第三に、リノール酸は酸化されやすい。多価不飽和脂肪酸は二重結合を複数持つため、熱、光、酸素によって容易に酸化される。酸化したリノール酸はOXLAMs(Oxidized Linoleic Acid Metabolites)と呼ばれる代謝物を生成する。OXLAMsは痛覚受容体TRPV1を活性化し、炎症反応を促進することが示されている(Ramsden et al., “Lowering dietary linoleic acid reduces bioactive oxidized linoleic acid metabolites in humans,” Prostaglandins, Leukotrienes and Essential Fatty Acids, 2012)。

(脂質とホルモンの関係については、テストステロンを自然に最大化する方法も参照)

種子油の製造プロセス

種子油が問題視されるもう一つの理由は、その製造工程にある。種子から油を抽出するプロセスは以下の通りである。

  1. 種子を高温で加熱する
  2. ヘキサン(石油系溶剤)で油を抽出する
  3. リン酸で脱ガムする
  4. 水酸化ナトリウムで脱酸する
  5. 活性白土で脱色する
  6. 高温で脱臭する

この過程で、リノール酸の一部が既に酸化している可能性がある。また、脱臭工程の高温処理(約240℃)でトランス脂肪酸が微量ながら生成されることも報告されている。

一方、オリーブオイル(エキストラバージン)は果実を物理的に圧搾するだけで抽出されるため、化学処理を経ない点で根本的に異なる。

脂肪組織におけるリノール酸の蓄積

摂取されたリノール酸は脂肪組織に蓄積される。米国の研究では、皮下脂肪組織に占めるリノール酸の割合が1959年の約9.1%から2008年の約21.5%へと2倍以上に増加していることが報告されている(Guyenet & Carlson, “Increase in adipose tissue linoleic acid of US adults in the last half century,” Advances in Nutrition, 2015)。

脂肪組織のリノール酸含有率は、過去数ヶ月〜数年の食事を反映する長期的なバイオマーカーである。この蓄積が肥満、インスリン抵抗性、慢性炎症とどのように関連するかについては、現在も研究が進行中である。

オメガ6:オメガ3比率の実践的な改善方法

脂肪酸バランスを改善するためのアプローチは2つある。オメガ6を減らすことと、オメガ3を増やすことである。

オメガ6を減らすための具体的な方法を以下に示す。

調理油の置き換えが最も効果的である。キャノーラ油や大豆油を以下の油脂に変更する。

用途おすすめの油脂理由
高温調理(炒め物、揚げ物)タロウ(牛脂)、ラード、ギー飽和脂肪酸が多く酸化に強い
中温調理(ソテー)バター、ココナッツオイル風味が良く酸化安定性が高い
低温・生食(ドレッシング)エキストラバージンオリーブオイルオレイン酸(一価不飽和)が主体
避けるべき油キャノーラ油、大豆油、コーン油、ひまわり油リノール酸含有率が高い

加工食品の確認も重要である。原材料表示に「植物油脂」「食用植物油」と記載されている食品には、ほぼ確実に種子油が使用されている。スナック菓子、カップ麺、冷凍食品、マーガリン、市販のドレッシングなどが該当する。

外食時も同様に、多くの飲食店では調理にキャノーラ油や大豆油が使用されている。完全に避けることは現実的に困難だが、自炊の比率を上げることで総摂取量を大幅に削減できる。

オメガ3を増やすためには、脂肪の多い魚(サーモン、サバ、イワシ、サンマ)を週2〜3回摂取することが推奨される。これらにはEPAとDHAが豊富に含まれている。草で育てられた牛肉(グラスフェッドビーフ)も穀物飼育の牛肉と比較してオメガ3の含有量が高い。

「種子油は安全」という反論について

種子油の安全性を主張する立場からは、以下の反論がある。

第一に、リノール酸は必須脂肪酸であり、欠乏すると皮膚障害などが起こるという点。これは事実であるが、必要量は極めて少量(総カロリーの1〜2%)で足りる。現代の食事では必須量の数倍を摂取している。

第二に、大規模観察研究では植物油の摂取と心血管疾患リスクの低下が関連しているという報告がある点。ただし、これらの研究では植物油が「飽和脂肪酸の代替として」摂取された文脈が多く、種子油そのものの効果を独立して評価するのは困難である。

第三に、シドニーダイエットハート研究やミネソタ冠動脈実験などの介入試験では、リノール酸の増加が心血管イベントを減少させなかった、もしくは悪化させた結果も報告されている(Ramsden et al., “Re-evaluation of the traditional diet-heart hypothesis: analysis of recovered data from Minnesota Coronary Experiment (1968-73),” BMJ, 2016)。

この問題は現在も科学的な議論が続いており、完全な結論は出ていない。

まとめ

・種子油(キャノーラ油、大豆油、コーン油など)にはリノール酸が高濃度で含まれている
・人類のリノール酸摂取量は過去100年で約3倍に増加した
・リノール酸は体内でアラキドン酸に変換され、炎症性メディエーターの前駆体となる
・現代食のオメガ6:オメガ3比は15〜20:1で、進化的な適応範囲(1〜4:1)を大幅に超えている
・酸化リノール酸代謝物(OXLAMs)は炎症反応を促進することが示されている
・脂肪組織のリノール酸蓄積は過去50年で2倍以上に増加した
・調理油をタロウ、バター、オリーブオイルに置き換えることが最も効果的な対策である
・種子油の安全性については科学的議論が継続中であり、断定的な結論は出ていない


【参照論文】

  1. Blasbalg, T.L. et al. (2011). “Changes in consumption of omega-3 and omega-6 fatty acids in the United States during the 20th century.” American Journal of Clinical Nutrition, 93(5), 950-962.
  2. Calder, P.C. (2006). “Omega-6 fatty acids and inflammation.” Prostaglandins, Leukotrienes and Essential Fatty Acids, 75(3), 197-202.
  3. Simopoulos, A.P. (2002). “The importance of the ratio of omega-6/omega-3 essential fatty acids.” Biomedicine & Pharmacotherapy, 56(8), 365-379.
  4. Ramsden, C.E. et al. (2012). “Lowering dietary linoleic acid reduces bioactive oxidized linoleic acid metabolites in humans.” Prostaglandins, Leukotrienes and Essential Fatty Acids, 87(4-5), 135-141.
  5. Guyenet, S.J. & Carlson, S.E. (2015). “Increase in adipose tissue linoleic acid of US adults in the last half century.” Advances in Nutrition, 6(6), 660-664.
  6. Ramsden, C.E. et al. (2016). “Re-evaluation of the traditional diet-heart hypothesis: analysis of recovered data from Minnesota Coronary Experiment (1968-73).” BMJ, 353, i1246.

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